東京出張の前日、私はいつも利用している宅配会社から、スーツケースを宿泊先のホテルへ送った。
傷を防ぐため、スーツケースには黒い専用カバーをかけ、その上から配送会社のビニール袋をかぶせた。ダイヤルロックの番号も確認し、発送前の状態をスマートフォンで撮影しておいた。
翌日、ホテルで受け取った荷物を見て、私は思わず立ち止まった。
黒いカバーが消えていたのだ。
ビニール袋はスーツケースへ直接かけ直され、ダイヤルロックの数字も発送時とは違う位置で止まっていた。
中身は荒らされていないように見えたが、誰かが触ったのではないかと思うと気味が悪かった。
私はホテルの従業員に事情を説明し、荷物が届いた時間帯の防犯カメラを確認してもらった。
映像には、配送員からホテル側へ引き渡された時点で、すでに黒いカバーが付いていない状態が記録されていた。
つまり、ホテル内で外された可能性は低い。
私は発送前の写真、伝票番号、ホテル側の確認内容を整理し、配送会社へ問い合わせた。
最初に返ってきた説明は、「輸送中にベルトコンベアーへ巻き込まれた可能性があります」という曖昧なものだった。
「可能性ではなく、カバーがどこで外され、なぜ何の説明もなかったのかを確認してください」
私は怒鳴らず、調査結果を書面で回答してほしいと伝えた。
数日後、担当部署から連絡が入った。
仕分け施設の記録と担当者への聞き取りを行った結果、黒いカバーが搬送設備へ引っかかり、一部が破損したため作業員が取り外していたことが分かったという。
安全上そのまま流せず、カバーは処分された。しかし、依頼人への報告が引き継がれていなかった。
ダイヤルロックについては、荷物を扱う際に数字部分へ接触した可能性はあるものの、開錠や開封を示す記録はなく、中身にも不足はなかった。
配送会社は説明不足を認め、カバー代を弁償すると申し出た。さらに、外装を取り外した場合は理由を記録し、受取人へ報告するよう手順を見直すと回答した。
私はその説明を聞いて、ようやく少し安心できた。
問題は、カバーが破れたことだけではない。
荷物の状態を無断で変えたように見えるのに、何の報告もなかったことだ。
「輸送中の事故でした」の一言が最初からあれば、ここまで不安になることはなかった。
今回、発送前の写真とホテルの防犯カメラがあったから、感情論ではなく事実に沿って確認できた。
それ以来、私は荷物を送る前に外観、鍵の番号、伝票を必ず撮影している。
配送中の破損は起こり得る。
しかし、事故が起きたあとの説明と報告こそ、利用者の信頼を守るために欠かせないものだと思う。