出張先のビジネスホテルへ着いたのは、夜9時を過ぎたころだった。
フロントでカードキーを受け取り、部屋へ入る。狭いが清潔で、白いベッドと小さな机がある、ごく普通の客室だった。
疲れ切っていた私は、スマートフォンを充電してすぐ眠るつもりだった。
ところが、ベッド横のコンセントを探していると、壁から伸びた黒いコードがベッドの下へ消えていることに気づいた。
備え付けの照明だと思ったが、どうしても気になる。
スマートフォンのライトで照らすと、奥に白い箱型の機械が固定され、緑と赤のランプが点滅していた。そこから複数の配線が伸び、1本はマットレスの下へ続いている。
端を持ち上げると、薄い板状のセンサーまで取り付けられていた。
ベッド、センサー、電源、点滅するランプ。
それだけで眠気が吹き飛んだ。
「まさか、何か記録されている?」
一度不安になると、冷蔵庫の振動や空調の音まで怪しく聞こえる。
私は機械に触れず、設置状態と配線を写真に撮った。そのままフロントへ電話する。
「ベッドの下に電源の入った機械があります。何の設備でしょうか」
電話口のスタッフは一瞬黙り、「確認します」と答えた。
数分後、客室へ来たスタッフもベッド下を見て表情を曇らせた。
「設備関係だと思いますが、私では詳細が分かりません」
その説明では安心して眠れない。
私は、用途が確認できるまで別の部屋へ変更してほしいと依頼した。ホテル側はすぐに応じ、別の階の客室を用意してくれた。
移動後、真っ先にベッドの下を確認した。今度は何もなく、ようやく休むことができた。
翌朝、責任者から説明があった。
あの機械は、一部の客室で試験運用していた睡眠状態を測るセンサーだった。マットレスの振動から睡眠時間などを測定するもので、カメラやマイクは搭載されていないという。
本来は対象プランの利用者に説明し、同意を得たうえで使用する設備だった。しかし客室の割り当てを誤り、私には何の案内もないまま作動していた。
ホテル側は正式に謝罪し、当日の宿泊料金を減額した。さらに該当設備は確認が終わるまで停止し、客室案内とスタッフへの周知を見直すと約束した。
危険な機械ではなかったと分かり、ようやく安心した。
それでも、説明のないセンサーがマットレスの下で光っていれば、不安になるのは当然だ。
安全な設備でも、宿泊客に知らせなければ「謎の装置」になる。
それ以来、ホテルへ入ると、Wi-Fi、コンセント、非常口を確認する。そして最後に、ついベッドの下までのぞいてしまう。
出張で身につけるとは思わなかった、新しい習慣である。