仕事を終え、夜の新幹線へ乗り込んだ。
その日は朝から立ちっぱなしで、足は限界だった。だからこそ、1万880円を払い、確実に座れる指定席を取っていた。
座席番号を確認して車内へ入ると、私の席には高齢の女性が深くもたれ、眠っていた。
切符を何度見ても号車と番号に間違いはない。
「すみません。こちら、私の指定席なのですが」
声をかけようとした瞬間、隣にいた高齢の男性が遮った。
「起こさないでください。この人は疲れているんです」
「でも、ここは私が予約した席です」
切符を見せても、男性は鼻で笑った。
「若いんだから立っていればいいでしょう」
周囲の乗客がこちらを見た。
私は怒鳴らず、静かに返した。
「奥様を座らせたいのであれば、あなたが席を譲るのが自然ではありませんか?」
男性の表情が変わった。
「どうして私が立つんだ」
「私に立てと言ったのは、あなたですよね」
数秒の沈黙の後、男性は舌打ちをして立ち上がった。
これで終わると思った次の瞬間、鈍い音がした。
男性は私のスーツケースの上へ、わざと腰を下ろしたのだ。
「ほら、そこに座ればいい」
車内がざわついた。
私はすぐにスーツケースと男性の様子を撮影し、近くの乗客へ車掌を呼んでもらった。
数分後、車掌が到着した。
私は指定席券を示し、最初からの経緯を説明した。周囲の乗客も「女性が先に席を取られていた」「男性が荷物へ座った」と証言してくれた。
車掌は端末で予約情報を確認した後、夫婦へ告げた。
「こちらはこのお客様が購入された指定席です。お手持ちの切符を確認させてください」
2人が持っていたのは、別の号車の座席だった。
「正しいお席へ移動してください。また、他のお客様の荷物に故意に座る行為はおやめください」
先ほどまで強気だった男性は、周囲の視線を受けて言葉を失った。
高齢の女性もようやく状況を理解し、「ごめんなさい。主人が勝手に座っていいと言ったので」と小さく頭を下げた。
男性も渋々立ち上がり、車掌に促されて移動した。
幸い、スーツケースに大きな破損はなかった。
車掌は念のため状態を一緒に確認し、何か問題があれば申し出るよう案内してくれた。
私はようやく自分の席へ座り、深く息を吐いた。
高齢者へ席を譲ることは、本人の善意で行うものだ。購入した人を責め、荷物に座ってまで奪うことは、思いやりではない。
必要なときに車掌へ助けを求めるのは、冷たい行為でも大げさな行為でもない。
ルールと自分の権利を守るために、遠慮する必要はないのだ。