午前五時。
まだ空が白み始める前の静かな家の中で、私はゆっくりと目を覚ました。
隣では夫の健一が背を向けたまま、深い眠りについている。
今日だけは、何があっても失敗できない日だった。
私は長年追い続けてきた夢――検事になるための任官試験を受ける日だった。
司法試験に合格し、司法修習の厳しい日々を耐え抜いてきたのも、すべて亡き父との約束を果たすためだった。
「弱い人を守れる法律家になりなさい」
父が病床で最後に残した言葉。
その言葉だけを胸に、私は何年も努力してきた。
音を立てないように着替えを済ませた時、階下から小さな物音が聞こえた。
不思議に思い、私は階段をゆっくり降りた。
普段なら、朝食の時間まで決して起きてこない義母・美智子が、台所に立っていた。
すりガラス越しに見える背中。
私は何気なく足を止めた。
「これで今日の試験には行けないわね……。もう家にいてもらうしかないわ」
義母の小さな独り言が聞こえた。
胸の奥に嫌な予感が走る。
私は息を殺し、引き戸の隙間から台所を覗いた。
次の瞬間、私は目を疑った。
義母は私専用の味噌汁の椀を前に置き、小さな袋から白い粉を取り出していた。
そして、それを迷うことなく味噌汁の中へ落とした。
白い粉は、わかめと豆腐の隙間に消えていく。
義母は箸で静かにかき混ぜ、何もなかったように笑った。
私の指先が震えた。
怒りではない。
恐怖でもない。
ただ、ここまでして私の未来を潰そうとする人間が、家族と呼ばれる存在だったことに、言葉を失った。
しかし私は、その場で飛び出すことはしなかった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=BmGRrw0riB4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]