その日は、母を病院へ連れて行くために駐車場へ向かっていた。
高齢になった母は、長時間歩くことが難しい。
車を降りてから入口までの少しの距離でも、ゆっくり休みながら進まなければならない。
だから私は、いつも車椅子利用者や身体の不自由な方が使うスペースの近くに停めるようにしていた。
その日も、入口近くの優先スペースへ向かった。
しかし、そこで信じられない光景を見た。
本来なら車椅子の方が乗り降りするために空けられている場所。
そこに1台の車が停まっていた。
しかも、ただ停めていたわけではない。
入口側に置かれていた「駐車禁止」のコーンをわざわざ横に避けてまで、車を入れていた。
「え……」
思わず声が出た。
コーンがある意味を考えなかったのだろうか。
その場所は、車を停めるためだけの場所ではない。
車椅子を横に広げたり、ドアを大きく開けたりするための大切なスペースだった。
母はその車を見て、少し困った顔をした。
「ここしか空いてないの?」
私は周りを確認した。
普通の駐車スペースはまだ空いていた。
それなのに、なぜわざわざこの場所なのか。
その時、車の近くにいた女性が戻ってきた。
私は怒鳴ることもできた。
「ここは停める場所じゃありませんよ」
そう言いたい気持ちもあった。
でも、母が隣にいた。
私は静かに声をかけた。
「すみません。この場所、車椅子の方が乗り降りするためのスペースなんです」
すると女性は少し驚いた顔をした。
「短時間だから大丈夫だと思って……」
そう答えた。
しかし、問題は時間ではなかった。
5分でも10分でも、その場所を必要としている人がいる。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください