「あ……まただ」
朝、月極駐車場へ行くと、新車のワイパーに手書きの紙が挟まっていた。
これで2度目だった。
紙には乱れた文字で、こう書かれている。
「車線を踏んで駐車しないでください」
「白線から25センチ以上離してください」
「車間が狭くてドアが開けにくいです」
私は思わずため息をついた。
確かに私の車は大きい。しかし毎朝、左右を確認し、白線の内側へ慎重に収めている。
隣へ寄りすぎれば反対側の車が困るため、できる限り中央に駐車していた。
それなのに、一方的に「迷惑をかけている」と決めつけられている。
しかも、買ったばかりの車へ勝手に触れ、ワイパーを持ち上げて紙を挟んでいることも不快だった。
私は感情的な返事を書かず、まず紙と駐車状態を撮影した。左右の白線、車体との距離、隣の車の位置も、日付が分かるように記録した。
念のため契約書を読み返したが、「白線から25センチ離す」という規則は記載されていない。
そこで2枚の手紙と写真を持って、駐車場の管理会社へ相談した。
担当者は現地へ来ると、メジャーで区画と車の位置を確認した。
「車体は白線内ですし、ほぼ中央に止まっています。
25センチという独自の決まりもありません」
さらに調べると、隣の車は自分の区画の端へ寄せて駐車していた。そのため、こちらとの間隔だけが狭くなっていたのだ。
担当者は防犯カメラも確認した。映像には、隣の利用者が私の車のワイパーへ紙を挟む様子が2回とも残っていた。
その日の夕方、管理会社が隣の利用者へ連絡した。
「他人の車両には触れないでください。
駐車位置への要望は、直接ではなく管理会社を通してください」
相手は最初、「ドアが開けにくかった」と主張したらしい。
しかし、現地で測った写真と映像を示されると、自分の車を区画の中央へ止めるよう注意を受け入れたという。
翌朝、隣の車はきれいに中央へ収まっていた。私のワイパーに紙はない。
その後、同じ手紙が置かれることは一度もなかった。
もちろん、白線内なら何をしてもよいわけではない。互いに乗り降りできるよう配慮は必要だ。
だが、存在しない「25センチルール」を押しつけ、他人の車へ勝手に触れるのは別の話だ。
私は2枚の手紙を捨てず、記録と一緒に保管している。
理不尽な要求には、怒鳴り返す必要はない。
写真、契約書、管理会社の確認。
冷静に残した証拠のほうが、ワイパーに挟まれた文句より、ずっと強かった。