「大変! 旦那が親父狩りの被害に遭った!」
8月26日の夜、帰宅した夫が玄関でそう訴えてきた。
私は驚いて駆け寄った。財布は無事なのか、けがはないのか、警察には連絡したのか。矢継ぎ早に尋ねる私に、夫は疲れ切った顔で買い物袋を差し出した。
中に入っていたのは、アイスクリームと大量のミニオンのくじ景品。
「……何これ?」
事情を聞くと、事件は保育園からの帰り道に起きたという。
猛烈な暑さの中、夫が4歳の娘と手をつないで歩いていると、娘が突然その場で立ち止まった。
「パパ、暑い。喉も乾いた」
「もうすぐ家だから、帰ってお茶を飲もう」
夫がそう答えて歩き出そうとした瞬間、娘は逃がすまいとするかのように、夫の腕を両手でがっちりつかんだ。
「アイス食べたい。パパでしょ?」
「パパだけど、それとアイスは関係ないよ」
正論で返したつもりの夫だったが、娘は道端にしゃがみ込み、大きな瞳を潤ませた。
「今日、保育園でお片づけしたよ。お野菜も食べたよ。それでもダメなの?」
周囲の視線が集まり始めたため、夫は根負けして近くのコンビニへ連行された。
娘は迷わず高めのアイスを選んだ。しかし会計へ向かう途中、店内に置かれたミニオンの一番くじを見つけてしまった。
「パパ、これも!」
「アイスを買う約束だけだよ」
「1回だけ。お願い」
夫が首を横に振ると、娘はアイスを胸に抱いたまま静かに言った。
「ママに、パパが昨日プリンを2個食べたこと言うよ」
そのプリンは、私と娘のために買っておいたものだった。
弱みを握られていた夫は、口止め料としてくじを1回引かされた。ところが当たったのは、娘が欲しかった景品ではなかった。
「これじゃない。もう1回」
結局、目当ての景品が出るまで数回引くことになったらしい。
話を聞き終えた私は笑いをこらえながら尋ねた。
「それで、犯人の特徴は?」
夫はリビングでアイスを食べている娘を指さした。
「身長約100センチ。4歳。ピンクの靴。犯行後も反省の様子なし」
娘は振り返ると、満面の笑みで言った。
「パパ、明日も被害に遭いたい?」
「絶対に嫌だ!」
夫が即答すると、娘は私のそばへ来て小声でささやいた。
「でもママ、パパがプリン食べたの、本当だよ」
今度は私が夫を見る番だった。
夫は目をそらし、娘は得意げにアイスを頬張っている。
結局、娘には「欲しいものがあっても人の弱みを使ってはいけない」と話し、夫には勝手にプリンを食べた罰として、翌日きちんと買い直してもらった。
犯人は4歳のわが娘。
被害品はアイス代と数回分のくじ代。
けれど翌日の帰り道、夫はまた娘と手をつなぎ、同じコンビニの前を通っていた。
なんだかんだ言いながら、世界で一番かわいい“犯人”に、夫はこれからも何度も捕まるのだと思う。