冷蔵庫を開けるたびに、見覚えのないプリンが一つ増えている。そのことに気づいたのは、二週間ほど前だった。
最初は自分で買ったのを忘れているだけだと思っていた。けれど数えてみると、いつも家族の人数より一つ多い。三人家族なのに、なぜか四つ入っている週が続いた。
「お前が買ったんじゃないのか」
夫にそう言われたが、心当たりはなかった。
高校生の息子に聞いても、「知らない」とスマホから顔を上げないまま答えるだけだった。
賞味期限のシールを見ると、近所のスーパーのものだった。私も夫もそのスーパーは利用しているが、プリンを買った記憶はどうしても思い出せなかった。
家の鍵を持っているのは、私と夫の二人だけのはずだ。それなのに、日中誰かが家に出入りしているような、うっすらとした違和感がずっと拭えなかった。玄関マットの向きが微妙に変わっていたり、リビングのクッションの位置がいつもと違っていたりする日もあった。
さすがに気味が悪くなった私は、ある平日、有給休暇を取って家に残ることにした。夫と息子を送り出したあと、洗濯物を干しながら、玄関の物音に神経を尖らせていた。
午前十時過ぎ、チャイムが鳴った。インターホンの画面を覗くと、そこに映っていたのは、三年前に他界した夫の父の、若い頃によく似た顔立ちの男性だった。
玄関を開けると、その人は少し気まずそうに頭を下げた。夫の従兄弟にあたる人で、事情があって半年ほど前から、夫にだけ内緒で、留守中に部屋の片付けを手伝いに来ていたのだという。夫の父の遺品整理が終わらず、息子である夫に負担をかけたくなかったらしい。
作業のあと、お礼のつもりでいつもプリンを買って冷蔵庫に入れていたそうだ。
「黙って入るのは、良くなかったですよね」
そう謝る従兄弟に、私は思わず力が抜けて笑ってしまった。その夜、夫にすべてを話すと、夫は驚いた顔のあと、少し照れくさそうに「そんなことしなくていいのに」とつぶやいた。
翌週も、冷蔵庫にはやっぱりプリンが一つ多く入っていた。