孫の小学校入学を控え、義母から立派な革のランドセルが届いた。
「私からのお祝いよ。うちの子たちも、みんなこれを使ってたの」
そう聞いていたので、代々受け継がれてきたものかと思い、ありがたく受け取った。
孫と一緒に箱を開け、中身を確認していたとき、内側の名札部分に、小さな刺繍があるのに気づいた。
そこには、うちの孫の名前ではない、聞いたことのない女の子の名前が、丁寧な字で刺繍されていた。
一瞬、頭が真っ白になった。
もしかして、義母が過去に育てていた、私たち夫婦の知らない子どもがいたのではないか。
そんな想像まで浮かんでしまい、聞くに聞けないまま、数日が過ぎた。
思い切って、電話で義母に尋ねてみることにした。
「ランドセルの内側に、知らない名前の刺繍があったんですが」
義母は少し驚いた声を出したあと、事情を説明してくれた。
「ああ、それね。近所の刺繍工房にお願いして名入れしてもらったんだけど、初回、別の注文と間違えられてしまって」
先に名前を入れる依頼が重なり、工房の担当者が、別の家族の注文票を見間違えて刺繍してしまったのだという。
義母は、その名札部分だけを新しく作り直してもらうよう、すでに工房に頼んでいた。
「あなたたちに渡す前に気づいて、直してもらうつもりだったんだけど、渡すタイミングがずれて、間に合わなかったみたいで、ごめんなさいね」
数日後、正しい名前が刺繍されたランドセルが、あらためて届いた。
前のランドセルの名札部分は、義母が自分で持ち帰り、工房に返品したという。
孫は、新しいランドセルを背負って、鏡の前で何度も自分の名前を確かめている。
あの日、勝手に膨らませてしまった想像のことは、義母には話さないままでいる。