隣の部屋の住人が引っ越していったのは、2週間前のことだった。
引っ越しの挨拶もなく、ある日突然、荷物がなくなっていることに気づいた。
けれど、その後も、隣の部屋の郵便受けには、3日おきに同じ茶封筒が届き続けていた。
差出人の欄には、聞いたことのない会社名らしきものが、小さく印字されていた。
気になって、管理会社に連絡してみた。
「転居届は出されているはずですので、郵便局側で転送されるかと思います」
それにしては、封筒が届き続けているのが不思議だった。
ある夕方、郵便受けの前を通りかかったとき、その封筒がちょうど届いているのが見えた。
差出人の名前を確認しておこうと、少し立ち止まった。
けれど、その日は結局、他人の郵便物に手を出すのは気が引けて、確認せずに部屋に戻った。
数日後、あらためて確認しようと郵便受けの前に立つと、その封筒は、もうそこになかった。
代わりに、郵便受けの扉には、管理会社の名前で「転送手続き完了のお知らせ」という小さな紙が貼られていた。
管理会社に確認すると、担当者はこう説明した。
「先週、郵便局からの依頼で、こちらの空室宛の郵便物について、まとめて転送処理をさせていただきました」
つまり、あの茶封筒は、最終的に元の住人のもとへ、正しく転送されたということだった。
それ以来、隣の郵便受けに、あの封筒が届くことはなくなった。
差出人が何だったのか、あの住人がどんな事情で急に引っ越していったのか、結局、確かめる機会のないまま今に至っている。