昨晩、寝る前になって3歳の娘が突然言い出した。
「私も、自分のお部屋がほしい」
わが家は広くない。
娘専用の部屋をすぐ用意できる余裕もなく、私は「もう少し大きくなったらね」と答えた。
すると娘は唇をへの字に曲げた。
「パパとママにはお部屋があるのに、私だけない」
そのまま布団に潜り込み、こちらを見ようとしない。
夫はしばらく考えた後、リビングに積んであったジョイントマットを見つめた。
「本物の部屋は無理だけど、秘密基地なら作れるかも」
時刻はすでに21時。
私は「今日はもう遅いから」と止めたが、夫は急にやる気になった。
床に敷いていた予備のマットを組み、壁と屋根を作る。崩れないよう家具から離し、出入り口も広くした。天井には重い物を使わず、薄い毛布をかけた。
娘も眠気を忘れ、横で一生懸命手伝った。
「ここが玄関」
「ぬいぐるみのお部屋も必要」
何度か壁が外れ、そのたびに娘は「壊れた!」と泣きそうになった。夫はテープやひもを使わず、マットの向きを変えて組み直した。
約30分後、リビングの隅に小さな秘密基地が完成した。
中には低いテーブルと子ども用の椅子。
電池式のライトをつけると、娘の顔がぱっと明るくなった。
「ここ、私のおうち!」
大満足した娘は、ぬいぐるみを全部運び込み、その夜は基地の前に布団を敷いて眠った。
翌朝、いつもなら「まだ眠い」と布団から出ない娘が、誰より早く起きた。
そして開口一番、
「朝ごはん、お部屋で食べる」
小さなテーブルにパンとヨーグルトを置くと、娘は椅子に座り、まるで一人暮らしを始めた人のように真剣な顔で食べ始めた。
ところが食後、問題が起きた。
「お皿もここに置いておく」
「それはダメ。食べ終わったら片づけよう」
娘は「私のお部屋だから!」と抵抗した。
そこで私たちは、秘密基地のルールを3つ決めた。
食べた物は片づける。
寝るときは入口を開ける。
パパとママが呼んだら返事をする。
娘はしばらく考え、「分かった」とうなずいた。
それから数日、娘は基地からほとんど出てこない。
絵本を読み、ぬいぐるみを寝かせ、時々こちらへ顔を出しては「遊びに来てもいいよ」と招待してくれる。
不思議なことに、今まで床へ散らかしていたおもちゃも、「自分のお部屋は自分で片づける」と箱に戻すようになった。
本物の個室ではない。
材料も、家にあったジョイントマットと毛布だけ。
それでも娘にとっては、初めて手に入れた自分だけの場所だった。
いつ飽きるかは分からない。
けれど今朝も、秘密基地の中から元気な声が聞こえた。
「パパ、ママ。朝ごはんできたら、持ってきてくださーい!」
どうやら、わが家の小さな住人は、もうしばらく引きこもるつもりらしい。