実家の駐車場に入った瞬間、私は思わずブレーキを踏んだ。
そこには、見覚えのある四角い車が止まっていた。
私の車と同じジムニー。色こそ違うものの、グレードもホイールも、後部のスペアタイヤまでほとんど同じだった。
「え、私の車がもう1台ある……?」
すると玄関から母が出てきて、平然と言った。
「ああ、それ弟の車よ」
実は私には双子の弟がいる。
けれど、仲が悪いというより生活が完全に別々で、会うのは数年に1度。連絡先は知っているが、必要がなければ会話もしない。
仕事も住む場所も違い、車の相談など一度もしたことがなかった。
そこへ弟が庭から現れ、私の車を見て足を止めた。
「……なんで同じ車に乗ってるの?」
「それはこっちの台詞なんだけど」
久しぶりの会話が、まさかの疑い合いから始まった。
弟は「俺が先に買った」と言い、私も「真似なんてしていない」と反論した。母は玄関先で、「双子って怖いわね」と面白そうに笑っている。
気まずい沈黙のあと、弟が車検証を持ってきた。
私も自分の車検証と契約書を取り出し、購入日を確認することにした。どちらかが家族から聞いて、無意識に真似した可能性もあると思ったからだ。
ところが、書類を並べて私たちは言葉を失った。
契約日は同じ月。
しかも納車日は、わずか1日違いだった。
購入した販売店は別々で、私は県外の店、弟は地元の店。互いの購入を知る方法はなかった。
さらに比べてみると、選んだオプションまで似ていた。カーナビは同じメーカー。ドライブレコーダーも同じ型。車内には同じ場所にティッシュ箱が置かれ、傘まで同じ向きで積んであった。
「ちょっと待って。これはさすがに怖い」
弟が真顔で言った。
私も笑いたかったが、背中が妙に寒くなった。
母はスマホで2台を撮影しながら、「小さい頃も同じ日に同じ場所をケガして帰ってきたよね」と、余計に怖い話まで始めた。
その後、弟と私は初めて車について長く話した。
選んだ理由も同じだった。
「見た目が好き」「狭い道を走りやすい」「長く乗れそう」。
疎遠になっていても、好みの根っこは変わらないらしい。
帰る頃、弟が少し照れながら言った。
「今度、2台で出かける?」
私は「色違いで並んだら目立ちすぎる」と笑いながらも、その場で連絡先を登録し直した。
数週間後、私たちは2台のジムニーで山へ出かけた。
数年に1度すれ違うだけだった双子が、同じ車を選んだことで、再び話すようになったのだ。
夏の実家で遭遇した“自分の車の分身”。
最初は少し怖かった。
でも本当に不思議だったのは、どれだけ離れていても、私たちがやはり双子だったことなのかもしれない。