3年前、結婚式を目前にして、婚約者の幸子は突然いなくなった。
置き手紙もなく、連絡もつかない。
消えたのは彼女だけではない。私の通帳と印鑑も一緒だった。
警察へ被害届を出し、婚約はその日のうちに破棄された。
それでも気持ちは簡単に整理できず、私は長い間、あの出来事を引きずっていた。
そんな幸子から、ある日突然LINEが届いた。
「久しぶり。
ずっと連絡できなくてごめんね」
3年ぶりだった。
なぜ今さら、と思いながらもやり取りを続けると、彼女は「病気になった」と打ち明けてきた。
入院中で、手術が必要だという。
そして続けて、こう言った。
「費用が300万円かかるの。お願い、貸してほしい」
さらに、
「助けてくれたら、今度こそ亮太と結婚する」
とまで言ってきた。
読んだ瞬間、私は妙に冷静になった。
幸子は昔から、追い詰められると相手の情にすがる人だった。
それでも私は、すぐには否定しなかった。
「わかった。協力するよ」
そう返した。
彼女はすぐに食いついた。
だが、お見舞いに行くと言うと、病院には来ないでほしい、口座に振り込んでほしいと慌て始めた。
そこで私は、話を終わらせた。
「もういい。病気も手術も嘘だろ」
実はその少し前、知人から連絡が入っていた。
幸子が駅前のパチンコ店にいる、と。
3年前に私の通帳を持ち逃げした理由も、結局は借金とギャンブルだったのだろうと、私はそこで確信していた。
私はLINEを続けながら時間を稼ぎ、その間に警察へ通報していた。
幸子は取り乱した。
「なんで? もう昔のことでしょ」
「私が捕まったら困るでしょ」
「だって私はまだ婚約者なんだから」
その言葉に、私はさすがに力が抜けた。
幸子の中では、3年前で時間が止まっていたのだ。
だが私の人生は、そこで止まってはいない。
私はすでに別の人と結婚していた。
あの時、失意の底にいた私を支えてくれた人だ。
それを知っても幸子は現実を受け入れず、最後まで自分が悪いとは思っていないようだった。
その後、幸子はパチンコ店から逃げようとして警察に確保された。
私の通帳と印鑑を持ち去った件に加え、今回の300万円の要求も問題になった。
私が晴れやかだったのは、復讐できたからではない。
3年前に途中で止まったままだった出来事に、ようやく終わりがついたからだ。
裏切られた過去は消えない。
けれど、もうあの人に私のこれからを触らせない。
そうはっきり決められた夜だった。