「10年ぶりに、息子たちに会う」
その日の夕方、居酒屋の個室でひとり座りながら、僕は何度もスマホの時計を見ていた。
テーブルには、ほとんど減っていないビール。
手だけが冷たかった。
僕はバツ1。
離婚したのは10年前。
当時、息子たちは13歳と10歳だった。
離婚後、いろいろな事情が重なり、会う機会は少しずつ減っていった。
最初の頃は誕生日に連絡をしていた。
でも返信が来ない年が続くと、
「もう嫌われているんだろうな」
と勝手に思い込み、僕の方からも連絡しなくなった。
本当は怖かっただけだ。
父親らしいことを何もしてあげられなかった自分を、息子たちに見透かされるのが。
そして10年。
上の息子は23歳。
下の息子は20歳になった。
ある日突然、長男から連絡が来た。
「久しぶり。今度、3人で飯でも行かない?」
何度も読み返した。
嬉しいはずなのに、すぐには返事ができなかった。
10年間の空白が、たった1行で埋まるわけじゃない。
会ったら何を言えばいい?
「元気だった?」
それだけでいいのか?
「ごめんな」
最初から謝るべきなのか?
嫌われていたら?
「もう父親だと思ってない」
そう言われたら?
考えれば考えるほど怖くなった。
約束の時間は19時。
18時55分。
僕はビールを一口飲んだ。
その時、廊下から若い男の笑い声が聞こえた。
心臓が跳ねた。
ガラッと扉が開いた。
「……久しぶり」
立っていたのは、もう子どもではない2人だった。
長男は僕より少し背が高くなっていた。
次男も、昔の面影を残しながら大人の顔になっていた。
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