義理両親の家で飼われていた老犬が脱走したとの連絡が入った瞬間、私は心の中で何とも言えないモヤモヤ感を抱えた。思い出すのは、その老犬の姿だ。耳も目もほとんど見えていない、年齢は13歳以上。もうすっかり老いを感じさせるその犬を、旦那のお兄さんが引っ越し先に連れて行くことなく置いていった。新築の家では犬を飼えないから仕方ない、という理由だったが、私はその理由がどうしても納得できなかった。
老人のように老いて、目も耳も衰えている犬を、ただ置いていくなんて。そんな考えが頭を巡り、私は心の中で繰り返しその事を思い詰めていた。
義理両親や旦那も、「いつか犬が戻ってくるだろう」と楽観的に考えていた。農家の家族ならではの感覚かもしれないが、私はそれがどうしても腑に落ちなかった。「いやいや、犬は今や土地勘もないし、周囲には熊や狐、鹿がたくさんいる。そして、間違えて行ったらそこは防風林という名の森ダンジョンだ」と、心配でたまらない。老犬の身体的な弱さも気がかりだ。そんな状況で犬が脱走したことを、私にはただ見過ごすことができなかった。
義理両親の家の出来事についてはなるべく触れたくなかったが、この犬が一番の犠牲者であることを痛感して、私は決意を固めた。
何が何でも犬を見つけ出すんだと、心に誓った。その日から、私は必死で犬を探し始めた。
最初の数日、雨が降る日もあった。老犬だから、さすがに三日目には無理かもしれないと心配した。でも、諦めたくない気持ちが私を動かしていた。知らない畑作農家さんに頭を下げて、ひたすら聞き回った。次第に、少しずつ情報が集まってきた。犬がかなり遠くまで行っているらしいとのことだった。
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