その日、私は道端で一匹の小さな猫を見つけた。体重が600gほどで、生後3ヶ月ほどに見えたが、その姿は普通の猫とは少し違っていた。何か異常を感じた。頭部が凹んでおり、体調がかなり悪そうだった。近づいてみると、その猫はほとんど動こうとしない。目の前でその小さな命が消えてしまうのではないかという恐怖に駆られ、思わず「放っといたら死ぬな…」と思った。
でも、放っておくわけにはいかない。心のどこかでその猫が命を繋ぐチャンスを持っているのなら、どうしても助けたくなった。私は猫を抱き上げ、そのまま近くの動物病院に連れて行った。
病院では、獣医師から衝撃的な説明を受けた。その猫は、車にひかれた可能性があり、頭部に衝撃を受けていたことがわかった。幸い、命に別状はないようだが、まだ回復には時間がかかるとのことだった。医師は点滴を始め、ノミやダニの薬を投与することに決めた。
帰宅後、私は自宅で猫のためのゲージを組み立てた。その猫は人間に対してかなり警戒している様子で、隅っこに縮こまって動こうともしなかった。おそらく過去の辛い経験が影響しているのだろう。
だが、私はどうしてもこの小さな命を守りたかった。
その夜、妻がスポイトでミルクを与えることにした。最初は警戒していたものの、ミルクを飲むうちに徐々に落ち着き、安心したのか、グルグルと鳴きながらスヤスヤと眠り始めた。その寝顔を見た瞬間、私は感情がこみ上げてきた。そして、目の前の小さな命を助けられることに対する喜びと、今までの努力が報われたことに、思わず涙が溢れてしまった。
「よく3ヶ月間、この過酷な環境を生き延びてきたね」そう心の中で呟いた。保護して本当に良かったと、心から思った。その時、私は気づいた。自分の手でも命を救えるんだということを。無力だと思っていた自分に、こんなにも大きな力があるのだと感じた。
猫の名前は「はく」。最初はただの猫だったが、今では私たちの家族の一員だ。もちろん、彼女には障害が残るかもしれない。
しかし、私はその障害を乗り越えて、彼女が幸せな日々を送れるように尽力するつもりだ。
私たちの生活がどれほど忙しくても、どれほど大変でも、「はく」を守り抜くことが私たちの使命だと感じている。彼女には、もう二度と悲しみや苦しみを味わって欲しくない。私たちができる限りの愛を注いで、幸せにしてあげたいと思う。