鎌倉にある古い屋敷の縁側には、夏の終わりを告げる淡い光が差し込んでいた。
庭の紫陽花は盛りを過ぎ、色あせた花を静かにうつむかせている。柏木幸子は、先ほど玄関で見送った息子夫婦の姿を思い返していた。
息子の健一と嫁のゆかりは、結婚記念日を祝うため、箱根へ二泊三日の温泉旅行に出かけたのだ。
「母さん、拓海のこと、本当にありがとう」
出発前、健一は申し訳なさそうに幸子の手を握った。その隣で、ゆかりはいつものように完璧な笑顔を浮かべていた。
上品で、優しく、誰から見ても理想的な嫁。
しかし、幸子には時々、その笑顔が人間らしい温かさではなく、作られた仮面のように感じられる瞬間があった。
「お義母さん、冷蔵庫に特製のハーブティーを入れてあります。最近お疲れのようでしたから、リラックスできるように調合しました」
そう言って微笑んだゆかりの声は、鈴の音のように穏やかだった。
だが、その優しさの裏に何か引っかかるものを感じながらも、幸子は深く考えることはなかった。
夫の宗一郎を亡くして十五年。
広すぎる家で暮らす幸子にとって、孫の拓海と過ごす時間だけが大きな支えだった。
八歳になる拓海は、生まれてから一度も言葉を話したことがなかった。
幼い頃に「重度の非言語性自閉症」と診断され、それ以来、彼は自分だけの静かな世界に閉じこもっているように見えた。
幸子が何度話しかけても、拓海は返事をしない。
それでも幸子は毎日、普通の会話をするように声をかけ続けた。
「拓海ちゃん、お父さんとお母さんは温泉旅行よ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=dg69Uz-xa7Y&t=38s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]