東京・港区の大学病院から、海沿いに建つ古びた療養病院へ、一人の女性が運ばれてきた。
その女性の名は、雅子。
全国に八百店舗以上を展開する「雅子食堂」の代表であり、二十五年間かけて小さな食堂を大企業へと育て上げた経営者だった。
しかし今、彼女は誰の声にも反応せず、ベッドの上で眠り続けるだけの存在として扱われていた。
医師から告げられた診断は――脳死の可能性。
けれど、それは真実ではなかった。
雅子はすでに意識を取り戻していた。
ただ、目を開けることができなかった。
いや、開けてはいけなかったのだ。
なぜなら、彼女の命を狙っている人物が、すぐそばにいたからだった。
「すまない……雅子。お前はここまでだ」
夫のケンジは、妻の耳元でそう囁いた。
長年連れ添った夫の声。
かつて愛を誓い合った相手の声。
しかし、その言葉には一切の温もりがなかった。
ケンジは病室の照明を消し、何事もなかったかのように部屋を出て行った。
そして廊下の先で待っていた一人の女性へ向かって、静かに告げた。
「これで終わる」
その女性の名は弓。
ケンジの愛人だった。
二人の前には、病院長の田中が用意した書類が並べられていた。
「脳死確定の署名さえいただければ、延命治療の中断手続きへ進めます。法律上も、数日で完了します」
田中院長は淡々と言った。
弓は冷たい笑みを浮かべながら、タブレットを確認する。
「株式の信託準備、担保融資、生命保険の受取手続き……すべて整っています」
その会話を、雅子はすべて聞いていた。
暗闇の中で、彼女の心は激しく震えていた。
しかし、身体だけは微動だにしなかった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=0K-E46hV6FE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]