大晦日の前日、仕事を終えて帰宅した私は、玄関を開けた瞬間に違和感を覚えた。
いつもなら、年末のこの時期には台所から出汁の香りが漂い、煮物を作る音や妻・結衣の忙しそうな足音が聞こえてくるはずだった。
しかし、その日は家の中が異様なほど静かだった。
私は靴を脱ぎながら台所へ向かい、そこで立ち尽くしている結衣の姿を見つけた。
彼女は買い物袋を手にしたまま、開け放たれた冷蔵庫をじっと見つめていた。
嫌な予感が胸をよぎった。
冷蔵庫の中には、何もなかった。
数日前まで隙間なく詰め込まれていたはずの正月料理の材料が、跡形もなく消えていた。
蟹、和牛、刺身用の魚、数の子、黒豆、栗きんとんの材料。
親戚の子供たちのために用意した菓子や手土産まで、すべてなくなっていた。
その時、奥の部屋から私の母・久江が何事もなかったような顔で現れた。
「お帰りなさい。正月の食材なら、全部隆の家へ持って行ったわよ」
私は一瞬、言葉を失った。
弟の隆は今年、秋に結婚したばかりだった。
その妻である麻衣子は初めて迎える正月で、母にとっては可愛くて仕方がない存在だった。
「向こうは新婚だし、親戚もたくさん来るのよ。
麻衣子さんが恥をかいたらかわいそうでしょう?」
母は悪びれる様子もなく言った。
その瞬間、私は結衣の顔を見た。
怒っているわけではなかった。
泣いているわけでもなかった。
ただ、深い疲れと諦めだけが浮かんでいた。
「明日、親戚の皆さんが来ますよね……」
結衣は小さな声で呟いた。
「何を出せばいいか、考えないと……」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が痛んだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=kOD_EV09hfc&t=87s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]