「その部屋だけは、絶対に入らないでください」
初出勤の日、そう告げられた瞬間、石川美咲は思わず二階の奥にある閉ざされた扉へ視線を向けた。
世田谷の高級住宅街に建つ、一ノ瀬家の大邸宅。白い外壁に囲まれた庭園、磨き上げられた床、芸術品のように飾られた家具。
そこは、普通の家庭とはまったく違う世界だった。
美咲が清掃員としてこの屋敷で働き始めたのは、娘の美咲子が小学校へ入学した春のことだった。
「石川さんですね。本日からよろしくお願いいたします」
出迎えてくれたのは、使用人頭の中谷雅子だった。
長年、一ノ瀬家を支えてきた彼女の表情には厳しさがあったが、その奥には深い責任感が感じられた。
屋敷の案内を受けながら、美咲は一つの違和感を覚えていた。
豪華な邸宅なのに、どこか寂しい。
人の気配が少なく、温かい家庭の雰囲気が感じられないのだ。
雅子は静かに説明した。
「ご主人様は一ノ瀬拓様。大手医療機器メーカーの社長でございます。ただ……お忙しく、ほとんど屋敷にはいらっしゃいません」
そして、二階の奥にある扉の前で足を止めた。
「あの部屋には近づかないでください。何があってもです」
美咲は理由を聞けなかった。
しかし、その部屋から時折聞こえる小さな音が、ずっと気になっていた。
数日後。
美咲が廊下を掃除していた時だった。
禁じられていた扉が、わずかに開いていることに気づいた。
中から聞こえてきたのは、小さな子供の泣き声だった。
「……誰かいるのですか?」
迷った末、美咲は静かに扉を開けた。
そこにいたのは、七歳ほどの少女だった。
車椅子に座り、窓の外を見つめる少女。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=ao_PLLDFBOo&t=2s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]