母が亡くなってから、1か月が過ぎたころだった。
悲しむ時間もないまま、私は少しずつ実家の片づけを始めていた。
母が88歳で亡くなった後も、家の中だけは以前とほとんど変わっていなかった。
台所には、いつも使っていた湯のみ。
洗面所には、小さな櫛。
寝室の椅子には、母が最後まで着ていたカーディガンが掛けられていた。
どれも昨日まで母が使っていたように見えた。
だから私は、なかなか手をつけられなかった。
何かを捨てるたびに、本当に母がいなくなってしまう気がしたからだ。
その日は、寝室の箪笥を整理することにした。
引き出しには、きれいに畳まれたハンカチや下着、古い手紙が入っていた。
母は昔から物を大切にする人だった。
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