17年ぶりに、弟から電話がかかってきたのは、ある平日の夜だった。
「急で悪いんだけど、仏壇、そっちで預かってもらえないか」
それだけを言うと、すぐに電話を切ろうとする様子だった。
両親が亡くなってから、実家の管理も、年に何度かの法事も、すべて私一人でこなしてきた。
弟は、両親の葬儀にも顔を出さず、それきり連絡もなかった。
「今さら、何のつもり」
そう聞いても、弟は「事情があって」と言うだけで、詳しくは話そうとしなかった。
腹立たしさを抱えたまま、その週の法事で、久しぶりに親戚一同が集まる機会があった。
片づけの合間、叔母がぽつりと口にした。
「あの子、ずっと実家に帰れなかったのよ。お父さんと、最後に大喧嘩したまま別れたから」
初めて聞く話だった。
父が亡くなる少し前、進路のことで弟と激しくぶつかり、それ以来、口をきいていなかったという。
「本人なりに、ずっと後悔してたみたい。でも今さら合わせる顔がないって」
叔母の話を聞きながら、私は、弟が一度も葬儀に来なかった理由を、少しだけ理解できた気がした。
その夜、私から弟に電話をかけ直した。
「仏壇のこと、詳しく話さない?」
弟は少し黙ったあと、ぽつぽつと事情を話し始めた。
新しい部屋に引っ越すことになり、狭くて仏壇を置く場所がない、というのが表向きの理由だった。
けれど、本当は、両親に手を合わせることさえ、まだ自分に許せていない気持ちがあるようだった。
「無理に来なくていいけど、たまには顔を見せてよ」
私がそう言うと、弟は「うん」とだけ、小さく答えた。
仏壇は、結局私の家で預かることになった。
翌月、弟は久しぶりに実家に立ち寄り、仏壇の前に、少しの間、黙って座っていた。