「……終わった。嫁に殺される」
休日の昼、台所から「バキッ」という乾いた音が響いた。
床を見ると、炊飯器の内ぶたが見事に真っ二つになっていた。
妻が10年以上、大切に使ってきた炊飯器だ。
前にも「この部品は壊れやすいから、絶対に無理やり外さないで」と言われていた。
それなのに私は、掃除をして褒められようと考え、固くなった部品を力任せに引っ張ってしまったのだ。
接着剤で直せないか。
テープで留めれば気づかれないのではないか。
一瞬だけ悪魔の考えが浮かんだが、炊飯時に高温になる部分だ。下手に修理すれば蒸気漏れや故障の原因にもなる。
私は壊れた部品の写真を撮り、メーカーの窓口へ連絡した。
ところが担当者から返ってきたのは、さらに絶望的な言葉だった。
「その型は製造終了から年数が経っており、交換部品の在庫もございません」
妻は夕方に帰ってくる。
今夜は、妻が楽しみにしていた炊き込みご飯を作る予定だった。
私は慌てて家電量販店へ走り、同じメーカーの炊飯器を探した。
しかし、妻が使っていたのは上位機種。後継モデルは想像以上の値段だった。
店員から「安い商品でも十分ですよ」と勧められたが、ここで金額を理由に妥協すれば、反省していないのと同じだ。
私は後継モデルを自分の小遣いで購入し、古い炊飯器の横に置いた。
午後6時、妻が帰宅した。
玄関を開けた妻は、台所に並んだ古い炊飯器と新品を見比べ、床に置かれた真っ二つの部品を発見した。
「これ、どうしたの?」
声が低い。
私は逃げ道をすべて捨てた。
「俺が壊した。注意されていたのに、無理やり外した。ごめん。新しい炊飯器は小遣いで買った」
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