「すでに持ち出している以上、今から返送されても、故意ではなかった証明にはなりません」
ホテルの支配人にそう言われた瞬間、私は謝り続けるのをやめた。
確かに、悪いのは私だった。
チェックアウト後、自宅へ戻って旅行バッグを開けると、見覚えのない白い目覚まし時計が入っていた。
ホテルの枕元に置かれていたものだ。
充電器や化粧品を急いで片づけた際、無意識に一緒に入れてしまったらしい。
私は時計を見つけてから10分もたたないうちに、ホテルへ電話をかけた。
「申し訳ありません。客室の目覚まし時計を、誤って持ち帰ってしまいました」
「こちらの負担で、今日中に返送します」
最初に電話へ出た女性は、少し驚きながらも、
「まだ清掃確認が終わっていませんので、確認して折り返します」
と答えた。
ところが30分後、連絡してきた支配人の態度はまるで違った。
「備品を持ち出したお客様は、注意が必要な宿泊者として記録する場合があります」
「清掃担当者も、時計を探すために2時間作業を止めています」
私は耳を疑った。
「先ほどの電話では、まだ清掃に入っていないと聞きました」
そう伝えると、支配人は一瞬黙った。
しかしすぐに、
「内部の確認状況について、お客様へ説明する義務はありません」
と言い切った。
さらに、時計の代金だけでなく、捜索にかかった人件費も請求する可能性があるという。
私は自分の過失を認めている。
返送費も負担する。
それでも、してもいない“2時間の捜索”まで請求されるのは話が違う。
私はその場で言い争わなかった。
通話終了時刻を保存した。
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