「お前はもう、女として見られない。だから離婚してくれ」
その言葉を聞いた瞬間、悦子の手から箸が落ちた。
乾いた音が、静かな食卓に響いた。
結婚して四十二年。夫を支え、家族を守り、ただ一緒に年齢を重ねてきた六十八歳の妻に対して、夫はまるで予定していた報告をするような冷たい口調で言った。
「残りの人生は、自分の好きなように生きたいんだ」
三月の終わり。外では冷たい雨が降っていた。
悦子はいつも通り、夫の好きな煮魚、味噌汁、ほうれん草のおひたしを並べていた。
定年を迎えた夫のために、これからは穏やかな時間を過ごせると思っていた。
しかし、現実は違った。
夫の心は、すでに別の場所へ向かっていたのだ。
「感謝はしている。でも、もう夫婦としては終わりなんだ」
その言葉に、悦子は胸を締めつけられた。
感謝という言葉は、とても便利なものだった。
長年支えてきた相手に向かって、最後に傷つける言葉を添えるためにも使えてしまう。
悦子は怒鳴らなかった。
泣き崩れることもしなかった。
ただ、静かに夫の顔を見つめた。
若い頃の夫は、こんな人ではなかった。
娘が生まれた時には涙を流して喜んでくれた。
悦子の両親の介護にも協力してくれた。
苦しい時期も、二人で乗り越えてきた。
だからこそ、目の前にいる男性が本当に同じ人なのか分からなくなった。
その夜、夫が寝室へ行った後、悦子は一人で冷めた味噌汁を見つめていた。
そこで、ある違和感に気づく。
ここ数か月、夫は急に身だしなみに気を使うようになっていた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=OM5QKMalmkk&t=4s,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]