江戸時代のある冬、秩父の山奥に杉尾村という小さな里がありました。三峰山の麓にあるその村は、四十ほどの家が寄り添う静かな場所でした。冬になれば雪に閉ざされ、村人たちは畑を耕し、炭を焼き、山の恵みに感謝しながら暮らしていました。
そんな村に、お竹という七十歳の産婆がいました。
腰は曲がり、髪は真っ白になっていましたが、その瞳には若い頃と変わらぬ優しさが宿っていました。
お竹が取り上げた赤子は数え切れず、病人には薬草を煎じ、怪我をした者には手当てを施しました。人だけではありません。傷ついた犬や馬が運ばれてくれば、同じように命として向き合いました。
お竹には、かつて夫と二人の子供がいました。しかし三十年前、流行り病によって家族を失いました。深い悲しみに沈んだお竹でしたが、ある朝、隣家から赤子の産声が聞こえた時、涙を拭いて立ち上がりました。
「生まれようとしている命が、私を呼んでいる」
そう思ったのです。
それからのお竹は、村の命を守ることを自分の役目として生きてきました。
ある雪の夕暮れ、一人の母親が慌ててお竹の家へ駆け込んできました。
「お竹さん、息子の熱が下がらないんです……」
三歳の男の子が高熱で苦しんでいました。お竹はすぐに診て、首を横に振りました。
「この熱には山奥の薬草が必要だよ」
しかし外はすでに日が沈み、吹雪が近づいていました。
「七十のお前さんが雪山に入ったら命がないぞ」
村人たちは止めました。
それでも、お竹は杖を持ち、薬草籠を背負いました。
「助かるかもしれない命を、見捨てることなんてできないよ」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=vGWGZYvnr1Q,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]