結婚して5年。
30歳の私は、妻と8年間一緒にいた。
多少きつい性格ではあったが、家のことはきちんとしてくれたし、優しい時もあった。
だから不満があっても、ずっと飲み込んできた。
ただ1つだけ、何度も伝えていたことがある。
「俺の部屋の物には触らないでほしい」
そこには子どもの頃の手紙や家族写真など、私にとって代わりのない物が置いてあった。
ところがある日、仕事から帰ると部屋が空っぽになっていた。
「大掃除のついでに捨てたよ」
妻はそう言った。
「いつまでも古い物にこだわらなくてもいいじゃない」
その瞬間、怒ることすらできなかった。
中でも失ったことが一番つらかったのは、10歳で亡くなった父との家族写真だった。
家族全員で行った最初で最後の旅行。
旅館の前で撮ってもらった1枚。
末っ子だった私は父が大好きで、その写真を見るたび、仕事から帰った父の匂いや、焼酎を飲みながら学校の話を聞いてくれた顔まで思い出せた。
同じ写真は、もうない。
その夜、私は家を出た。
ネットカフェで朝まで眠れず、ようやく涙が出た。
「俺の過去まで捨てられたんだ」
そう思った時、離婚の意思が固まった。
翌日、11歳年上の兄に事情を話した。
兄は、
「俺も行く。親代わりだ」
と言ってくれた。
妻の実家へ行くと、義父は最初から激怒していた。
妻は「夫が突然出ていった」としか話しておらず、私が浮気でもしたと思われていたのだ。
私はこれまでのことを全部説明した。
そして最後に、
「妻は、私が絶対に触らないでほしいと言っていた物を、許可なく全部処分しました」
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