遠藤俊助、32歳。システムエンジニアとして働いていたが、1年前に横領の疑いをかけられ、会社を去った。実際は上司の黒田という男による濡れ衣だった。黒田は、自分より若い俊助が社内評価トップだったことが気に入らず、自分の横領の証拠を俊助に押し付けたのだ。口下手な俊助はうまく弁解できず、結局会社を去るしかなかった。それから11社に応募し、すべて不採用。
今日は12社目、最後の最終面接だった。
俊助は車椅子生活を送る58歳の母・美咲と2人で暮らしている。数年前の事故がきっかけだった。休日は必ず母をドライブに連れ出し、家事も率先してこなす。先週の日曜も、海沿いの道を走った。「あんたそろそろ彼女の1人でも作ったらどうなの。私のせいで結婚しないんじゃないかって心配なのよ」。美咲の言葉に俊助は「俺は別にいいんだ」とだけ答えた。面接に向かう朝、美咲は手作りのお守りを渡してくれた。「俊助ならきっと大丈夫だから」。「就職決まったら次は彼女ね」。俊助は苦笑しながら家を出た。
面接会場へ向かう途中のバス停で、義足と杖を頼りに歩く女性が乗り込んできた。
優先席に座っていたリクルートスーツ姿の学生2人は、スマートフォンから目を上げようともしない。それどころか、1人が小さく舌打ちをした。俊助は何も言わず立ち上がり、女性に声をかけた。「どうぞ」。優先席ではない、普通の座席だった。
女性はしばらく俊助の隣で言葉を交わした。手にしていた面接資料を覗き込み、「誰かのために動ける人であれ、この言葉を覚えておいて」と社訓のページを指差した女性の口ぶりは、まるでその会社を知り尽くしているようだった。
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