その日は、いつも通りの休日の昼過ぎだった。
私は用事を済ませるため、電車に乗っていた。
車内はそれほど混雑していなかったが、休日ということもあり、ベビーカーを押した家族や小さな子ども連れの乗客が何人かいた。
私が乗った車両には、車椅子やベビーカー利用者のためのスペースがあった。
そこにはすでに3台のベビーカーが並んでいた。
小さな子どもたちが乗っていて、親たちは周囲に気を配りながら立っていた。
その近くに、1人の女性が立っていた。
最初、私は特に気にしていなかった。
車椅子スペースは、ベビーカーを利用する人が優先して使う場所ではあるが、混雑時には周囲の状況によって誰かが立つこともある。
それ自体は珍しいことではない。
ただ、その女性の行動が少し気になり始めた。
女性は窓の方を向いたまま、スマホを見るわけでもなく、何かを待っているような様子だった。
ところが突然、両手を頭の後ろへ回した。
最初は髪を直しているだけだと思った。
しかし、次の瞬間、女性は本格的に髪を編み始めた。
両手で髪を細かく分け、編み込みを作っている。
電車は走行中だった。
当然、車内は揺れる。
女性はつり革にも手すりにも触れていない。
両手は完全に髪に集中していた。
カーブに入るたび、女性の体は大きく左右に揺れた。
私は思わず周囲を見た。
すぐ横にはベビーカー。
もしバランスを崩して倒れたら、小さな子どもにぶつかる可能性もある。
もちろん、本人が怪我をする危険もある。
「大丈夫なのかな……」
そう思いながら様子を見ていた。
しかし女性は気にする様子もなく、黙々と髪を整え続けた。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください