半年前に娘が生まれ、優しい夫と穏やかな日々を送っていた。だがそんな私にも、思い出したくない過去がある。
結婚前、5年付き合っていた恋人がいた。将来を約束していたはずなのに、ある日突然「もっといい相手が見つかった」と一方的に別れを告げられたのだ。あの頃は仕事も手につかず、体重まで落ちるほど落ち込んだ。今の夫には、出会った当初にその経緯をすべて話してある。
「過去の恋愛も全部ひっくるめて好きだ」と言ってくれた夫のおかげで、少しずつ立ち直ることができた。
新しくできたカフェで、不思議な力を持つ姉とランチをしていた時のことだ。姉は昔から人の心や少し先の出来事が見える人で、これまで何度もその力に助けられてきた。パスタを食べながら近況を話していると、背後から聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこにいたのはあの元恋人と、派手な化粧をした新妻だった。
新妻は開口一番、私を値踏みするように見つめてきた。元恋人は得意げに言った。「美人でエリートの嫁をもらったんだ。貧乏人と別れて良かったよ」。悔しさよりも、呆れが勝った。すると姉が静かにつぶやいた。
「あの人はきっと後悔することになるわ。言葉だけじゃなく、自分の選択が間違いだったって思い知ることになる」。
数週間後、自宅マンションの前で再び二人と鉢合わせした。SNSで住まいを調べてきたらしい。「こんなタワマンに住んでるなんて、お近づきになりたいな。お家に招待してよ」。図々しく言う二人に、夫がきっぱりと言い放った。「常識のない人と仲良くする気はありません」。
そこへ姉が現れた。偶然を装っていたが、姉には全てお見通しだったのだろう。「あなた、今朝拾った落とし物を届けずに自分のものにしたわね」。新妻は言葉を失った。「それに、あなたたち二人とも、お互いに隠れて借金をしているじゃない」。元恋人はキャバクラの女性に、新妻はホストにお金をつぎ込み、その金額はどちらも295万円。偶然の一致に、二人は顔を見合わせたまま言葉を失い、その場で言い争いを始めた。
私は迷わず警察を呼んだ。落とし物は無事に持ち主へ届けられ、二人は間もなく離婚。それぞれ家族や職場からも見放され、借金の取り立てに追われる日々を送っているという。
一方の私は、夫と娘と共に穏やかな毎日を取り戻した。姉のおかげで、過去の亡霊に振り回されずに済んだことに、心から感謝している。