息子が結婚したと知らされたのは、本人の口からではなく、玄関先に立つ見知らぬ女性を紹介された瞬間だった。
「リホと申します」。挨拶もそこそこに、彼女は言い放った。「さっき婚姻届を役所に出してきました」。
驚く私たちに構わず、リホさんは続けた。「これから息子の家族と関わる気はありません。それを条件に入籍してあげたんです」。そう告げると、二人はあっという間に姿を消した。
それから息子とはほとんど連絡が取れなくなった。人づてに、家政婦を雇うほどの生活をしていると聞いても、給料からしてどう考えても無理のある話だった。
一週間後、今度は娘が婚約者のマナブさんを連れてきた。誠実な人柄に安心していたところ、娘はある提案をしてきた。「お母さん、もう無理しなくていいんだよ」。何の話か分からず戸惑う私に、娘は封筒を差し出した。中には15万円が入っていた。実は娘は、毎月このお金を私に渡し続けていたのだ。
さらに一週間後、リホさんと息子が再びやってきた。「生命保険の受取人を息子に変更してください」。そう言うと、手書きの契約書を差し出してきた。実家の家と土地の名義を息子のものにするという内容だった。
呆れて追い返したが、その翌週、今度は息子から「仕送りをやめる」と電話があった。
電話の向こうからリホさんの声がした。「悲惨な老後を過ごしてください」。
そこで初めて、隠されていた事実が明らかになった。数年前、息子が起業した会社が倒産し、月30万円の借金を背負っていたのだ。連帯保証人になっていたのは私だった。息子から届いていた10万円と、娘が毎月私に渡してくれていた15万円は、実はこの借金の返済に充てられていた。
娘は結婚前、婚約者のマナブさんに事情を話していた。するとマナブさんの伯父が、まさに息子が起業時に世話になった佐藤さんその人だったのだ。娘は佐藤さんに頼み、私を連帯保証人から外す手続きを進めてくれていた。
真実を知らない息子は「借金が軽くなる」とだけ聞かされ、深く考えずに新しい契約書にサインしていた。連帯保証人でなくなった途端、リホさんは手のひらを返すように「月30万円は自分で払え」と息子に言い放った。
私は息子との連絡先をすべて削除した。数日後、息子は家の前で泣き崩れ、近所迷惑で警察に連れて行かれたという。リホさんとはその後すぐに離婚。新しい相手を探すも、その一人にストーカー被害に遭い、大怪我を負って外に出られなくなったそうだ。息子は今も一人で借金を返済しながら、夜間のバイトを掛け持ちしている。
私はパートを辞め、専業主婦として娘夫婦との穏やかな毎日を選んだ。先日執り行われた娘の結婚式では、涙が止まらなかった。