義父が亡くなったのは、今年の春だった。
葬儀を終え、遺品整理のために義実家に集まった日、私は古いアルバムや手紙を仕分ける手伝いをしていた。
「嫁のあなたが、勝手に触らないでほしいの」
義姉の声が飛んできたのは、その時だった。結婚して8年、義姉とは深く関わることもなく、当たり障りのない関係を続けてきたつもりだった。
「あなたは他人だから、口を出さないで」
はっきりとそう言われて、私はそれ以上何も言えなくなった。悪気があっての言葉ではないと分かっていても、その場にいることがつらくなり、私は先に部屋を出た。
帰り際、義父の書斎の隅に、古い日記帳が置かれているのが目に入った。誰にも気づかれないよう、私はそれをそっとバッグにしまった。
数日後、夫が仕事に出た後、勇気を出してページをめくった。
義父の几帳面な字で、日々の出来事が綴られていた。天気のこと、庭の花のこと、そして——義姉についての記述が、何度も出てきた。
義姉が若い頃、家業を継ぐために進学を諦めたこと。結婚後も実家に生活費を送り続けていたこと。誰にも打ち明けられないまま、一人で家族を支えてきたこと。
私が「他人」だと言われた言葉の裏に、義姉自身の長年の孤独があったのだと、その文字を読んで初めて分かった。
日記の最後の方のページに、私の名前があった。
「息子の嫁は、遠慮がちだが、よく気がつく子だ。娘のように思っている」
その一文を読んだとき、私は思わず日記を閉じることができなくなった。
数日後、私は日記を持って義姉を訪ねた。
持ち帰ったことを詫び、迷った末に、義父の言葉が書かれたページだけを見せた。
義姉はしばらく黙って文字を追っていたが、やがて小さく肩を震わせた。
「お父さん、そんなふうに思ってくれてたんだ……」
それから、義姉は初めて、自分の事情を少しずつ話してくれた。
すべての誤解が解けたわけではない。これまでの距離感が、急に縮まったわけでもない。
それでも、義実家に行くたびに感じていた息苦しさは、あの日から少しずつ変わっていった。
「他人」だと言われた言葉の意味を、今の私は、以前とは違う形で受け止めている。