朝、家の前から「ドン」という鈍い音が聞こえた。
外へ出てみると、道路のアスファルトが崩れ、大きな穴が開いていた。
表面だけが割れたようには見えない。
穴の中は暗く、どこまで空洞が続いているのか分からなかった。
その時、宅配便の車がこちらへ曲がってきた。
私は慌てて安全な場所から両手を振り、運転手に停車してもらった。
「この先、道路が陥没しています!」
運転手が車を降りて確認すると、驚いた表情で後続車にも合図してくれた。
私はすぐに110番した。
場所と穴の大きさを伝えると、「絶対に近づかず、安全な場所から車や歩行者に注意を促してください」と言われた。
しかし、カラーコーンも規制用のロープもない。
警察が来るまでどうすればいいのか困っていると、近所のおじいさんが長い棒を持って現れた。
「これを少し離れた場所に立てよう。穴のそばには行かない方がいい」
別の家の女性は、目立つ布を棒に結んでくれた。
向かいの奥さんは、「私、市役所の道路管理課にも電話したよ」と声をかけてくれた。
さらに、通学中の子どもたちが近づかないよう、近所の人たちが交差点の手前に立って迂回を案内した。
誰かが指示したわけではない。
それぞれが、できることを自然に始めていた。
真夏の日差しの中で待っていると、近くの店の人が袋を差し出した。
「暑いのにご苦労さま。皆さんで食べてください」
中には冷たい飲み物とドーナツが入っていた。
緊張していた私は、その優しさに思わず笑ってしまった。
約20分後、警察官が到着。
道路を通行止めにし、周辺の安全を確認してくれた。
続いて市役所と工事会社の担当者が来て調査すると、見えている穴よりも地下の空洞が広がっている可能性があるという。
もし車がそのまま通っていたら、さらに崩れていたかもしれなかった。
その日のうちに道路は完全に封鎖され、応急工事が始まった。
翌日、原因となった地下設備の補修と埋め戻しが行われ、数日後には舗装まで完了した。
工事担当者から「早く通報してもらえたので、事故になる前に対応できました」と聞き、ようやく胸をなで下ろした。
穴を見つけた時は、ただ怖かった。
けれど振り返れば、通報する人、目印を持ってくる人、子どもを誘導する人、飲み物を差し入れる人がいた。
大きな事故を防いだのは、特別な誰かではない。
名前も知らない近所の人たちの、小さな行動の積み重ねだった。
道路には大きな穴が開いた。
でもその日、私はこの町の人たちの温かさを、はっきりと見ることができた。