去年着ていたコートのポケットを整理していると、1枚のレシートが出てきた。
日付は2025年11月9日、午前11時1分。
水族館の入館料1,600円を払った時のものだった。
捨てようとして、何気なく上の部分を読んだ私は思わず笑ってしまった。
そこには公式マスコットからの挨拶として、高知の寒さやクリスマス、手洗いとうがいを呼びかける文章が印字されていた。
しかし、その最後に気になる一文があった。
「ちなみにこのレシートメッセージ、館長に秘密でやってます。バレたら怒られるかも」
当時は急いでいて、そこまで読んでいなかった。
1年近くたってから見つけた“秘密の告白”。
本当に館長には黙っていたのだろうか。
そして、結局バレたのだろうか。
気になり始めると、もう止まらなかった。
数日後、私は再びその水族館を訪れた。
売店のスタッフに古いレシートを見せながら、「このメッセージを書いた人、館長に怒られませんでしたか」と尋ねてみた。
スタッフはレシートを見るなり吹き出した。
「ああ、これですね。ちゃんとバレましたよ」
やっぱり怒られたのか。
私は少し心配になった。
スタッフの話では、メッセージを考えたのは来館者を少しでも笑顔にしたいと思った若い職員だった。
許可を取れば却下されるかもしれない。
そう考え、レジの設定を担当する先輩と相談し、こっそり文章を追加したという。
ところが翌朝、売上確認のためにレシートを見た館長が、すぐ異変に気づいた。
若い職員は館長室に呼ばれた。
「勝手に変更したことは注意されたそうです」
そこまで聞いて、私は胸が沈んだ。
しかし、話には続きがあった。
館長はレシートを机に置き、笑いをこらえながら言ったという。
「内容は悪くない。むしろ、最後まで読んでしまった」
さらに館長は、文章の誤字や個人情報に関する問題がないか確認したうえで、正式な企画として続けることを認めた。
ただし条件が1つ。
「次からは秘密にせず、事前に見せること」
職員は叱られる覚悟だったが、その後は季節ごとに新しいメッセージを考える担当になったそうだ。
スタッフは現在のレシートを私に見せてくれた。
そこには新しい文章の最後に、小さくこう書かれていた。
「館長確認済みです。今回は本当です」
思わず声を出して笑った。
去年の秘密は、とっくにバレていた。
けれど、怒られて消されたのではない。
誰かを楽しませたいという小さな工夫が、館長公認の企画に変わっていたのだ。
私は古いレシートと新しいレシートを並べ、大切に財布へしまった。
1,600円の入館料でもらった、少しだけ心が温かくなる2枚の思い出になった。