日曜の夕方だった。
私は買い物を終え、いつもの道を走っていた。
休日は、急な車線変更や妙に遅い車が多い。
だから普段より車間を空け、慎重に運転していた。
その時、後ろから来た赤い軽自動車が、やけに左右へ揺れていることに気づいた。
右へ寄る。
慌てて戻る。
またセンターラインへ近づく。
酒でも飲んでいるのか。
スマホを触っているのか。
私はルームミラーを見た。
そして、思わず二度見した。
運転席の女性は、前を見ていなかった。
メーターの上に小さな鏡を置き、顔を近づけている。
片手には化粧道具。
ハンドルを持っているのは、もう片方の手だけ。
信号待ちではない。
車は普通に走っている。
女性は鏡を見ながら、目元に何かを塗っていた。
「うそでしょ……」
声が漏れた。
車はまた少し右へ膨らんだ。
対向車が来ると、慌てたように左へ戻る。
そのたびに、こちらの心臓が縮む。
化粧をすること自体が悪いわけではない。
だが、今は運転中だ。
数十キロの速度で動く鉄の塊を操作しながら、鏡に映る自分の顔を見ている。
本人だけの問題ではない。
歩行者がいる。
自転車がいる。
対向車もいる。
事故になれば、化粧が崩れるどころでは済まない。
私は車間をさらに広げた。
近づくのも怖い。
離れすぎて見失うのも不安だった。
次の信号が赤になった。
赤い車は、私の斜め前で止まった。
私は迷った。
直接声をかければ、逆上されるかもしれない。
それでも、このまま見過ごして事故が起きたら、きっと後悔する。
車を安全な位置へ止め、信号が変わるまでの短い時間に窓越しで声をかけた。
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