目の前に座る取引先の部長、黒川は、最初からこちらを見下す態度を隠そうともしなかった。私の隣には、幼い頃に両親を亡くし、私が親代わりとなって育ててきた妹の美咲がいる。今日は新規契約の最終確認。彼女は担当者として、何日も資料を作り込み、緊張しながらこの席に臨んでいた。
だが黒川は、資料に目も通さず鼻で笑った。
「下請様が、ずいぶん立派な顔をして来たもんだな」
美咲は唇を噛みながらも、丁寧に頭を下げた。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます。弊社としては御社のご要望に沿えるよう――」
「うるさいな」
黒川は箸でつまんだかっぱ巻きを、美咲の胸元へ投げつけた。緑のきゅうりと米粒が彼女のスーツに散る。個室の空気が凍った。
「下請様が銀座の寿司の味、分かるのか? 分からないだろう? せいぜい回転寿司がお似合いだ」
取り巻きの社員たちが乾いた笑いを漏らす。美咲は俯いたまま、震える手でスーツを拭こうとした。その姿を見た瞬間、私の中で何かが静かに切れた。
私は湯呑みを置き、黒川を見据えた。
「確かに、私には銀座の寿司の味は分からないかもしれません」
黒川が勝ち誇ったように口角を上げる。
「ほう、分かってるじゃないか」
「ですから、御社の社長を呼んでください」
「は?」
「この場で、社長を呼べと言っています」
黒川は腹を抱えて笑い出した。
「お前、何様のつもりだ? 下請けの分際で社長を呼べだと?」
私は名刺入れから一枚のカードを取り出し、テーブルの上に置いた。そこには、グループ全社員一万二千人を率いる持株会社の社名と、私の肩書きが印字されている。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=SBKmQ-JjzcE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]