俺が勤めていた東都精機は、特殊バルブの製造で業界に名を知られた中堅企業だった。俺は昭和の終わりに入社し、現場、営業、購買を渡り歩いて三十年以上。派手な肩書はなかったが、会社の生命線である仕入れ先との関係だけは、誰にも負けない自負があった。
特に重要だったのが、特許技術を持つ部品メーカー・白川工業との取引だ。実はその特許の一部は、若い頃の俺が共同開発に関わり、個人名義で権利を保有していた。
白川社長とは苦しい時期を共に乗り越えた仲で、契約も俺の信用で成り立っていた。
ところが先代社長が退き、海外MBA帰りの新社長・久我が就任してから空気が一変した。
「これからはデータと学歴の時代です。昭和入社の役立たずは会社にいらない」
全社員の前で、久我は笑いながらそう言った。
「新システムを導入し、高学歴な新卒を使えば、古い人脈に頼る必要などありません。君のような勘と経験だけの人間は、もう不要です」
会議室が静まり返る中、俺は黙って辞表を差し出した。
「社長のお望み通り、本日付で退職いたします」
久我は満足そうに鼻で笑った。
「決断が早くて助かります。引き継ぎ資料だけ置いていってください」
俺は必要最低限の社内資料だけ残し、机を片づけた。白川工業との関係、特許の権利、長年積み重ねてきた信用。それらは会社の備品ではない。俺自身の人生そのものだった。
退職から二週間後、白川工業は東都精機への部品供給を停止した。理由は単純だった。俺が退職したことで、これまでの特別条件は無効。さらに特許使用に関する確認が取れない以上、出荷はできないという正式な通知が届いたのだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=XYcAiCrWUtM,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]