最初は、生活保護を受けていた1人暮らしの住人の部屋だと思っていた。
住人が病気で入院し、そのまま施設へ入ることになったため、2DKの部屋を空にする依頼だった。
だが玄関を開けると、想像以上の光景が広がっていた。
床が見えないほど積み上がったゴミ。
食べ終えた容器やカップ麺。
飲みかけの缶。
尿が入ったまま残された容器。
暑い時期ということもあり、虫も大量に発生していた。
見積もりを断った業者もいたという。
今回の片付け費用は約70万円。
スタッフたちはマスクを着け、声を掛け合いながら少しずつゴミを運び出していった。
そこで管理会社から知らされた。
「実は、娘さんと2人で暮らしていたんです」
娘は高校生だった。
作業が進み、奥の部屋が見えてくると、それまで「ゴミ」にしか見えなかった景色の中から、別の生活が姿を現した。
学校の教科書。
お菓子。
化粧品。
少女向けの持ち物。
昔の写真には、普通の家庭で笑っていた頃の姿も残されていた。
「ここで朝、化粧して学校へ行ってたんやな」
スタッフの1人がつぶやいた。
家の中がどれほど荒れていても、少女は制服を着て外へ出れば、周囲の高校生と同じように学校生活を送っていたのかもしれない。
外から見ただけでは、家の中のことなど分からない。
住人も、最初からこうした生活を望んでいたとは限らない。
病気や心身の状態が悪化すると、食べることや眠ることだけで精いっぱいになり、掃除や片付けの優先順位が下がってしまうことがある。
スタッフたちは、そんな現実を目の前の部屋から感じ取っていた。
その時、横尾さんが少女の持ち物を見ながら涙を流した。
自分にも同じくらいの年頃の子どもがいる。
だから余計に重なって見えたのだろう。
「なんでもっと助けてあげられへんかったんやろな」
責める言葉ではなかった。
誰か1人を悪者にする言葉でもなかった。
ただ、ここまで深刻になる前に、誰かが気づく方法はなかったのか。
本人たちから助けを求められない時、周囲はどうすれば気づけるのか。
そんな悔しさだった。
片付け業者にできるのは、残された部屋をきれいにすることだけかもしれない。
それでもゴミの下から現れた教科書や化粧品は、この場所に単なる「ゴミ屋敷」では終わらない人生があったことを教えていた。
一見普通に学校へ通っている子どもの家で、何が起きているのか。
外からは見えない。
だからこそ、助けを求める声が聞こえてからではなく、声を出せない人にも支援が届く仕組みが必要なのだと思う。