同窓会の招待状が届いたのは、雨上がりの夕方だった。差出人には、かつて通っていた大学の医学部同窓会事務局の名。封を切った瞬間、胸の奥がひくりと痛んだ。
――俺は医学部を中退している。
医師になれなかった。いや、正確には、なろうとしたが、途中で降りた。周囲から見れば「脱落」だろう。机の上に招待状を置いたまま、しばらく動けなかった。
行く資格などない。笑い者になるだけだ。そう思いながらも、指先は勝手に出欠の返信欄を「出席」にしていた。
当日、会場はホテルの宴会場だった。磨き上げられた床、控えめな照明、名札と肩書きが並ぶ受付。白衣ではなくスーツ姿なのに、そこには確かな“医師の空気”が漂っていた。受付で自分の名前を告げると、係の女性が一瞬だけ目を見開き、すぐに丁寧な笑顔に戻った。
「……お越しいただき、ありがとうございます」
その言葉が、妙に重かった。
会場へ入ると、懐かしい顔がいくつも見えた。だが、懐かしさより先に、視線の棘が刺さる。名札には「○○病院 医師」「大学病院 助教」「クリニック院長」……俺の名札だけ、肩書きが空白だった。
乾杯の後、背後からわざとらしい笑い声が聞こえた。
「おい、待てよ。……お前、誰? っていうか来る資格なくない? 医学部中退だろ?」
振り返ると、同級生の医師、松田がニヤニヤと立っていた。学生時代から声が大きく、集団の中心にいることで自分の価値を確かめるタイプだ。周囲の数人も、面白がるように口元を歪める。
「同窓会ってさ、“医師になった同級生”が集まる場だろ? 中退者が来て何話すの? 失敗談? はは」
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