里帰り出産を控えたあの頃、私は大きなお腹を抱えながらも、どこか穏やかな気持ちで準備を進めていた。初めての出産ではなかったが、それでも新しい命を迎える支度には特別な緊張と喜びがある。赤ちゃんの肌着、母子手帳、入院に必要な書類、退院後に使う細々したものまで、一つひとつ確認しながら鞄に詰めていた。そんな私の姿を、義母はいつも冷ややかな目で見ていた。
夫は仕事が忙しく、家の中のことにはほとんど無関心だった。そのため、同居していた義母の機嫌を損ねないよう、私は普段から細心の注意を払っていた。だが義母は、何をしても気に入らなかったらしい。「今どき里帰り出産なんて甘えだ」「うちの嫁なら最後まで家のことをして当然」と、顔を合わせるたびに嫌味を言ってきた。私は赤ちゃんのためにも波風を立てたくなくて、ただ黙って頭を下げていた。
出発前日、私は体調が優れず、少し早めに横になっていた。翌朝、実家へ向かう予定だったため、荷物は玄関脇にまとめて置いておいた。ところが次の朝、目を覚ました私を待っていたのは、信じがたい光景だった。そこにあるはずのキャリーケースも、赤ちゃん用品も、私の衣類も、何もかも消えていたのである。
慌てて義母に尋ねると、彼女は悪びれもせず鼻で笑った。
「捨てたわよ。どうせ実家に帰るんでしょ? だったら二度と帰ってくるなってこと。荷物なんていらないでしょう? ふふっ」
あまりの言葉に、私は一瞬、耳を疑った。だが玄関横のゴミ置き場を見た瞬間、それが冗談ではないとわかった。破かれた母親学級の資料、踏みつけられたベビー用品の袋、散乱する衣類。
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