出張から帰ると、家の前には消防車が停まり、黒煙が空高く立ち昇っていた。足がすくむような感覚に包まれながら、私は車から飛び降りて家へ駆け寄った。火事だと知らされたとき、私はただの事故だと思っていた。しかし、この光景を目の当たりにした瞬間、何かが胸の中で壊れるような気がした。
家の中からは消防士たちの叫び声と、消火器の音が響いていた。
無我夢中で家に駆け込むと、すぐに消防士が私を止めた。
「お客様! 入らないでください!」
私はどうしても家の中に入らなければならなかった。そこに、何があったのかを確認しない限り、私は安心できなかった。焦る気持ちを抑え、消防士に従いながらも家の中を見渡した。その時、ふと風呂場の方から薄暗い影が見えた。
「誰かいる?」と思いながら、私は足音を忍ばせて風呂場へ近づいた。その先に見えたのは、ただの影ではなかった。中から、確かに夫の声が聞こえた。
「嫁は明日帰宅だから、大丈夫だよ」
その言葉に、私は凍りついた。瞬間的に頭の中で整理がつかなくなった。何を言っているのだろうか。私は出張から帰る前に夫に連絡をしていた。
その時、私の帰宅日は既に伝えていたはずだ。そして何より、家の中で「大丈夫」と言っている夫の声に、違和感が広がっていった。
その瞬間、私は全てを理解した。家が火事になった理由、そして夫が「大丈夫」と言い続けた本当の意味。それは、私が家に帰る前に何かが起き、すべてを計算しての発言だったのだ。
夫の目の前にいるのは、私ではない誰かだった。
火事はただの偶然ではなく、意図的に起こされたものだった。そして、夫がその事実を隠そうと必死に守ろうとしていることが、すべて私に伝わってきた。
その時、私は無言でその場を後にした。心臓が張り裂けそうなほどの衝撃を受けたが、それを表に出すことはできなかった。私はただ黙ってその場を離れ、外に出た。外で待っていた警察官が私に声をかけたが、私は答えずに足早に歩き出した。
その後、夫とその人物—つまり、私の「知らなかった誰か」と共に家から逃げ出したのは、すべてが手遅れだったときだった。家の火災は、単なる事故ではなく、裏で繋がっていた人々が関与していたことが明らかになった。そして、3人が緊急搬送されたことを、後で聞いた。彼らの行動が引き起こした火事は、私の予想を遥かに超えた結果を生んだ。
私は一度も振り返ることなく、その後の行動を決めた。すべてが壊れた瞬間だった。しかし、それでも私は無駄に時間を費やさないようにし、未来に向かって歩み始める決意を固めた。