休日の夕方、俺――牧田明宏、38歳独身は、商店街の片隅にひっそりと佇む古びた弁当屋に足を踏み入れた。
きっかけは偶然だった。
両親の墓参りを終え、昔暮らしていた町を歩いていた時、小さな女の子が転んでしまったのだ。妹を助けようと必死になる姉、散らばった買い物袋、泣きじゃくる幼い妹。その姿を見て、俺は思わず手を差し伸べた。
その子たちが暮らしていた場所こそ、廃業寸前の弁当屋だった。
「ことみ、大丈夫?」
「痛いよ……」
姉のゆいはまだ小学生だというのに、妹を守ろうと懸命だった。
しばらくして店から出てきた女性が深々と頭を下げた。
「娘を助けていただいて、本当にありがとうございます」
彼女の名前はその子さん。二人の娘を育てながら、亡き母親から受け継いだ弁当屋を一人で切り盛りしている女性だった。
店内は古かったが、隅々まで掃除されていて清潔だった。並んでいる弁当も派手さはないものの、一つ一つ丁寧に作られていることが伝わってきた。
「ママのお弁当、美味しいのに全然売れないんだ」
ゆいが寂しそうにつぶやいた。
「お客さん、ぜんぜん来ないの」
ことみも小さな声で続ける。
俺はその言葉を聞きながら、注文したハンバーグ弁当を口にした。
――正直に言えば、味は悪くなかった。
だが、店で商品として売るには何かが足りなかった。
特徴がない。
一生懸命作っているのに、その努力が料理の魅力として伝わっていない。
それが、料理人としての俺には痛いほど分かった。
俺はかつて、三ツ星レストランのシェフだった。
高校卒業後、両親が営む和食店で修業を始めた。
父はいつも言っていた。
「明宏、料理は技術だけじゃない。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=ektpsP_j7oM,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]