日本に自衛隊の特殊作戦部隊を創設するという、前人未到の任務を託された男がいた。その名は、荒谷卓。彼は後に、国内外の軍事関係者から「化け物」と畏怖されることになる、伝説の自衛官である。
その伝説の序章は、41歳の時、アメリカ陸軍最強の特殊部隊「グリーンベレー」の訓練に参加したことから始まる。世界中から集まった屈強なエリートたちが次々と脱落していく地獄の訓練を、荒谷は鼻歌交じりで楽々とこなしてしまった。
その常軌を逸した体力と精神力に、百戦錬磨の米兵たちは驚愕し、「あいつは化け物(モンスター)だ」と噂したという。
帰国後、荒谷は特殊作戦群の創設に着手する。全国の部隊から「我こそは」と自信に満ち溢れたエリート隊員たちが集められた。しかし、荒谷の選抜はあまりにも苛烈を極めた。彼は集まった隊員たちを、容赦なく「不合格」の烙印を押して次々とふるい落とし、各部隊の偉いさんたちから激怒されたが、それすらも意に介さなかったという。
彼の情熱は、私財を投じるほどだった。部隊創設にあたり、自ら300万円の実費を負担。プライベートでは靖国神社の掃除を欠かさず、その行動の根底には、常に国を思う強い信念があった。
そもそも、彼の自衛隊入隊の経緯からして異色である。東京理科大学在学中に大手ゼネコンへの内定が決まっていたが、師事していた武道の師範に「お前は軍人の顔をしている。自衛隊へ入れ」と命令され、その一言で内定を辞退し、自衛隊への道を選んだのだ。
入隊後は、圧倒的な身体能力と明晰な頭脳を武器に、精鋭部隊である第一空挺団などで活躍。
そして、初代特殊作戦群長という重責を全うすると、「自分の成すべき事はした」と言い残し、2008年に自衛隊を退職した。
常識を破壊し、伝説を築き、そして静かに去っていく。荒谷卓は、まさに現代に生きるサムライそのものだった。