「お願いします! うちの牛乳を使ってください!」
また来た。
店の奥でパン生地をこねていた俺は、聞き覚えのある明るい声に思わずため息をついた。
隣町の牧場から毎日のようにやって来る女性――薫。
彼女はいつも大きな牛乳瓶を抱え、満面の笑みでこう言う。
「この牛乳を使えば、パンはもっと美味しくなります!」
だが、俺は何度も断り続けていた。
「うちには必要ありません。お帰りください」
冷たい言葉を投げる理由は一つ。
彼女は昔、地元で有名だった元ヤンだったからだ。
そして俺は、高校時代に彼女が原因で大切なものを傷つけられたと思い込んでいた。
関わりたくない。
そう思っていたのだ。
俺の名前は指紋。二十七歳、独身。
恋愛なんて考える余裕はない。
なぜなら、父から受け継いだ小さなパン屋「パン・ドカピ」が、今にも潰れそうな状況だったからだ。
父は一年前に病気で倒れ、その三か月後に亡くなった。
父の焼くパンは、町で評判になるほど美味しかった。
幼い頃から父の背中を見て育った俺は、いつしか決めていた。
「俺も父さんみたいなパン職人になる」
その夢を叶えるため、専門学校を卒業した後も六年間、父の隣で技術を学んだ。
腕には自信があった。
しかし、父がいなくなってから店の売上は少しずつ落ちていった。
「味は悪くないと思うんだけどね……」
母も首をかしげる。
俺も同じように父と同じ製法でパンを作っている。
なのに、なぜか客足は戻らない。
このままでは、父が残してくれた店を守れない。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=2dYUkICp9MY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]