これは、俺の親父が若い頃にやっていた、墓石を壊す仕事にまつわる、少しばかり奇妙で、そして恐ろしい話だ。
その仕事は、いわゆる「無縁仏」となったお墓を整理するというものだった。引き取り手のいなくなった墓石をつるはしで粉々に砕き、土地を更地に戻す。そして、その土地はまた新たな墓として、寺の住職によって販売される。
親父は生前、「坊主のやることはえげつない」と、よく苦々しげに呟いていた。
生活のためと割り切り、淡々と作業をこなしていた親父だったが、彼には一つ、この仕事をするにはあまりにも不向きな特性があった。人には見えないものが見えてしまう、「霊感」があったのだ。
つるはしを墓石に振り下ろすたび、どこからともなく現れるオレンジ色に燃える人魂が、狂ったように親父の頭の上を飛び交っていたという。

中でも一番気味が悪かったのは、「骨上げ」という作業だった。古いお墓を掘り起こし、中の遺骨を新しい場所へ移すのだが、土葬が多かった昔の墓からは、まだ髪の毛が残っている骨や、棺の内側が引っ掻き傷だらけになっているものが出てくることもあったそうだ。「それって、生き埋め…ってことだよな…」。子供の頃にこの話を聞かされた俺は、怖くて眠れなくなったのを覚えている。
しかし、親父がその仕事を辞めた本当の理由は、もっと別にあった。
いつしか、あのオレンジ色の人魂が、仕事場だけでなく、家の中にまでついてくるようになってしまったのだ。そしてある日、親父は見てしまった。食卓で無邪気に夕飯を食べる、幼い俺の頭の上を、何個もの人魂が楽しそうに飛び回っているのを。
その光景を見た瞬間、親父は仕事を辞めることを決意した。たとえ生活が苦しくなろうとも、息子を危険に晒すわけにはいかない。それが、親父が墓石を壊す仕事をやめた、たった一つの理由だった。