三重県伊勢市で記者として働いていた辻出紀子さん(当時24歳)が、1998年の11月24日を境に、音もなく日常から消えてしまった。いまなお解明されていない「伊勢の神隠し」は、几帳面で真面目な彼女の性格と、小さな“異常”の積み重ねが作り出した迷宮だ。
その日、紀子さんは出版社「伊勢文化舎」の仕事を終えて深夜近くまで社に残り、取材や原稿の整理に追われていた。
まるでいつものように。外は冬の冷気が忍び寄る始まりで、彼女はダウンジャケットを会社に置いたまま、静かにビルを出た。携帯電話にも、それまで何度か電話をかけてきた取材協力者の男性Xとの接触があったと伝えられている。
翌朝、彼女は出社しなかった。家族は残業疲れや社内泊を想像し、大きな不安には至らなかった。だが昼を過ぎ、保険会社を名乗る人物から「あなたの車が斜めに停められているので移動を」と電話が入り、ようやく異変が表面化する。駐車場で発見されたのは、彼女のマーチ。普段の彼女の性格には似つかわしくない斜め停車。車内には財布も携帯も手帳もなく、非喫煙者であるはずの彼女の“車の中の一本”のタバコの吸い殻。
さらに、座席は低く下げられ、ステレオはいつもの癖とは反対にOFFになっていた。
捜査は「家出」として扱われ、家族の訴えにも当初は応じられない。だが次第にXという人物へと疑いが向けられていく。取材協力者という立場で彼女と関わっていたXには、多くの証言が寄せられた。激高して物を投げたり、夜通し眠らず、異常な行動をすることもあったという。
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