父さん、ごめんなさい。
どうか、俺を責めないでください。
9月4日から今日まで、
父さんはずっとICUにいます。
ベッドに横たわる顔色は、
不思議なくらい血色がよくて、
それを見るたびに、
「もしかしたら、まだ…」
そんな希望を、勝手に抱いてしまいました。
でも、よくなりませんでした。
一度も。
今日の午後、
医師がまた母と俺を呼びました。
説明は、前とほとんど同じでした。
「長期間の寝たきりで、筋力は大きく低下しています」
「薬も十分に使っていますが、
回復はこの状態が限界です」
「人工呼吸器は、
現実的に外すことはできません」
そして、
医師はまた、
遠回しな言い方で、
“決断”を求めてきました。
正直に言います。
病院には、
まだ何十万円もの未払いがあります。
それが、
家族にとってどれほど重いか。
……俺は一瞬、
「もう、いいのかもしれない」
そんなことを、考えてしまいました。
父さんの人生で、
たった一つの心残りがあるとしたら、
それは、
俺が結婚する姿を
見られなかったことかもしれません。
医師は、
これまでも何度も
「覚悟してください」と言いました。
それでも俺は、
諦めきれませんでした。
「もしかしたら、
あと数年だけでも…」
「その間に、
俺が家庭を持つ姿を
見せられるかもしれない」
そんな、
身勝手な希望を、
手放せなかった。
でも、
もう無理なのかもしれません。
ここ数日、
父さんに
「家に帰りたい?」と聞くと、
あなたは、
小さく、でも確かに、
うなずきました。
家に帰れば、
人工呼吸器はありません。
それがどういう意味か、
俺だって、分かっています。
今日の医師の話は、
俺の中の最後の執念を、
静かに、でも確実に、
折りました。
父さん。
不孝な息子で、
本当にごめんなさい。
俺は、
できる限りのことは、
全部やりました。
本気で、
あなたの命を、
引き留めようとしました。
もし、
あなたを家に連れて帰る決断をしたとしても、
どうか、
どうか、
俺を恨まないでください。