冷凍庫の奥で5年間、時が止まったままの一皿があった。それは、亡き母が最後に作った豚の角煮。娘の宝谷瑞稀さんは、母の形見であるその角煮を、食べたくても食べられず、捨てることなど到底できずにいた。 5年前、母の恵さんは「何が食べたい?」と瑞稀さんに尋ねた。
瑞稀さんが「角煮」とリクエストすると、母は腕を振るって作ってくれた。
しかし、その日の夜に恵さんは突然倒れ、帰らぬ人となってしまった。目の前には、母が作ってくれたばかりの角煮。あまりにも突然の悲しみで、それを口にすることはできなかった。 それから5年。母の思い出が詰まった角煮を前に、瑞稀さんはついに「食べたい」と決心する。番組では、その願いを叶えるため、まず角煮が食べられる状態かを専門家が調査。結果は、少量の菌はいるものの、100度以上でしっかり加熱すれば少量食べる分には問題ないとのことだった。
「どうせ食べるなら、美味しく食べたい」。その想いに応え、大阪からプロの料理人が駆けつけた。料理人は、母の味を壊さぬよう、そして瑞稀さんが安心して食べられるよう、細心の注意を払って調理を進める。
レンジで慎重に解凍し、形が崩れないように丁寧にボールへ移す。そして、圧力鍋を使い、確実に100度以上の熱を加え、完璧に母の角煮を復活させた。 食卓に置かれた、5年ぶりの母の角煮。瑞稀さんがおそるおそる一口食べると、その目から大粒の涙がこぼれ落ちた。「美味しい。お母さんの味、そのままだ」。
5年分の想いが、温かい角煮とともに溶けていくようだった。
その姿に、調理した料理人ももらい泣きしてしまう。 隣にいた父も一口食べ、「うん、嫁さんの味そのままだ」と、懐かしそうに目を細めた。 それは単なる料理ではなく、母が最後に残した愛情そのものだった。5年の時を経て、その想いは確かに娘と家族へと届いたのだ。