父の介護をしていたのは、私だった。
実家に戻り、夜中の痰吸引、食事の介助、紙おむつの交換。通院の付き添い。役所手続き。仕事を調整し、睡眠を削り、父の「ありがとう」だけを支えに続けてきた。姉夫婦はというと、月に一度顔を出しては、父の前でだけ優しい言葉を並べ、写真を撮って帰っていく。
そして父が亡くなった翌週、姉夫婦は待ってましたと言わんばかりに態度を変えた。
「あなた、もう用済みよね」
「介護は偉いけどさ、遺産狙いのケチな子って感じで引くわw」
「さっさと出て行け!」
リビングの真ん中で、姉の夫が腕を組んで笑った。姉は頷きながら、まるで私が家に寄生していたかのように見下ろす。介護の疲れより、その視線の冷たさに息が詰まった。
「ここは姉さん夫婦が住む。あなたは他人。荷物まとめて」
私は反論しなかった。怒鳴っても無駄だと分かっていたからだ。彼らは父の死を悼んでいない。悲しんでいるのは“財産が動く瞬間”を逃したくない焦りだけだ。
私は静かに言った。
「分かった。引っ越す」
姉夫婦は勝ち誇った顔をした。私が泣いて縋ると思っていたのだろう。私が淡々と退き下がったことで、余計に気分が良くなったらしい。
「やっと話が分かるじゃない。ま、感謝してね。追い出すだけで済ませてあげるんだからw」
その言葉を聞きながら、私は心の中で確認した。
――じゃあ、予定通りにやろう。
引越し当日。
私は早朝から動いた。段ボールは最小限。
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