義実家での夕食は、いつも同じ空気だった。箸の音が止まるたび、姑の視線が私の腹と頬を往復する。私は黙って湯呑みを置き、会話の端に追いやられる役を演じた。反論すれば「生意気」。泣けば「面倒」。だから私は、淡々と、丁寧に、何も感じていないふりをしていた。
その日、姑は唐突に言った。
「不妊でデブの寄生虫嫁は出て行け」
義弟嫁が、待っていましたと言わんばかりに笑う。
「同じ嫁として恥ずかしいですw 義母さんとは私たちが同居しますから」
その瞬間、私は胸の奥で小さくガッツポーズをした。顔には出さない。声も出さない。ただ、心の中だけで確信した。
――やった。これで、終わる。
夫は横で曖昧に頷き、止めようともしない。私にとってそれは、最後の確認になった。この家で私が守るべきものは、もう何もない。私は深く頭を下げた。
「承知しました。ご迷惑をおかけしました」
姑が勝ち誇ったように鼻を鳴らした。「わかればいいのよ」。義弟嫁は、こちらを値踏みするように見ながら、言葉を重ねる。
「出て行ったら生活できないでしょ? まあ、身の程ってものがあるから」
私は笑わなかった。
怒りもしなかった。ただ、翌週の予定を頭の中で組み立てた。引っ越し。住所変更。各種契約の見直し。余計な荷物の処分。――自由になる手順は、すでに私の中に揃っていた。
私の月収が三百万円だと、彼らは知らない。知らなくていい。そもそも私は、稼ぎで家族を黙らせたいわけではなかった。欲しかったのは、尊重。最低限の礼。そこが無理なら、距離を置くだけだ。
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